愛育養護学校アートティーチャー 小野榮子
2010年12月
それはこんなことから始まりました。一昨年からアートの日に「みんなで絵音楽」を二階のピアノのある部屋で行っています。毎回一冊の大型絵本を選び、読み手と聞き手兼音出しやさんに分かれて、一緒に絵本を味わうサークルです。基本的には、読み手である先生が本を読み、それを聞きながら私がピアノや打楽器で即興で音を入れていきます。開始時は先生の朗読に私だけの音楽が入る形式でした。子どもたちは、あくまで聞き手役です。私自身も、みんな聞いてよ!という気持ちが強く、絵本もストーリー性が強いものを選び、あくまで音楽は情景描写にとどまり、脇役でした。フィナーレにその話から即興で作った歌を私が歌い、みんなはその段階で打楽器で音をいれていました。
それが、聞き手役のみであった子どもたちも、絵本を見て先生の声や私の音を聞きながら、楽器を奏でるように変わっていきました。きっかけは、S君。『月曜日はなにたべる』(エリック・カール絵)を、私が歌いながらピアノを弾いていたら、ページの終わりでS君が「チン」とトライアングルを入れました。この本は見開きページごとに曜日が変わり、食べるものが一つずつ増えていきます。彼のトライアングルは、変化します。「はい、もう終わったよこのページ、次はどうなるかな、わあ、僕はスパゲッティ好きなんだ。アイスクリームでおしまいね。」このように毎回のチンはそれぞれ違うのです。
普通、こういったいわゆる朗読にはギターやピアノが入る形式のものが多いのですが、映画やドラマでもそうであるように状況説明及びその誇張、また時には登場人物の気持ちを表現したりすることが多く、どちらかというと自分を直接的に表現しない音楽が主です。しかし子どもたちは、もっと多様な音のボールを投げてきます。『ドオン』(作:山下洋輔、絵:長新太)では、鬼の子とこうちゃんと一緒になって「ドカシャバ ドカシャバ ドカカドン~」と太鼓を叩きました。ある時はふわふわのおばけはかわいいねと鉄琴の音がフウワリン~。マラカスを振りボンゴを叩いて、ジャングルの動物たちの声と合奏もしました。こちらも、『もこもこ』(作:谷川俊太郎、絵:元永定正)のような言葉の少ない絵本を選んでみたり、『たまごにいちゃん』(作・絵:あきやまただし)のように、大好きなにいちゃんの気持ちに入り込める本も選んでみました。
子どもたちが投げてくるさまざまな音のボールを受けて、子どもたちにまた返す。それをまた受けた子どもが返す。いい音の波が、そこに広がって、みんなが楽しくなって気持ちよくなる。さあ秋です。S君やMちゃんの音のボールも受けますよ。Y君が本をめくる時には、どんな音色がいいかな。Aちゃんと一緒にカリンバをポロカリンやろうね。Tちゃんがジャンベをダカスカドゥパパーと叩き、みんなも踊って、私もガンガンとピアノで仲間入り。秋には大人だってやりますよ。「ドンドコ ドンドコ ドカシャバ ドカシャバ ジャカスクドーン ゲラゲラ ゲラケー ハッハッハッハッ。」愛育の音は、みんな違ってみんないい『好い』サウンドです。みなさんよろしくお願いします。